今日は時間が止まってしまったかのように、街が静かだ。
マンションのアスファルトの影には、蝉が静かに張り付いている。
朝、ドリップコーヒーに入れるのは黒糖だったけれど、最近ははちみつを入れている。苦味とどろりとした甘さが、朝のぼやっとした脳と胃にゆっくりと染み渡る。
「この世界が二人だけだったらいいのに」
ドラマのセリフで男性が女性に言っていた。
もし、好きな男性にこんな言葉を言われたとしたら、胸が張り裂けるほどに苦しいだろうと思った。ただそう思う反面、本当にそうだとしたらどんなにいいのか、そう考えてしまうのだ。
人を好きになるという感情は、いつも傲慢で、我儘で、自分本位だ。人に対するとき、相手を通して見ているのは常に自分なのだ。
何も手に入るわけでもなく、何も望むこともなく、いつの間にか、この人のためなら持っている自分のなにかを差し出したいと思う。それは思いではなく、願いに近いかもしれない。それでも、そうだとしても、結局は自分本位なのだろうか。