曇りの夜は暖かい

兎にも角にも朝が来たら起きなければいけない。

少しの優しさと

ありがとうがさようならで、またねが永遠にないことで、大丈夫が大丈夫ではなくて。

そんなありふれた嘘でつくられた世界で、優しさを受け取れる人は案外希少なのだ。

 

「これって他の人も水あげてますよね?」と声をかけてきたのは、職場にいるがたいのいい男性で、植物管理を自らしてくれている人だ。

「こうやってちゃんと見てあげないと、生き物は枯れてしまいますから。」なんて独り言のように言いながら、せっせと枯れた葉を取り除いている。

その植物の名前はなんていうのかと私が尋ねると、

男性は「木です。」

とだけ言った。もちろん冗談であるのだが、私は少し時間をおいてはっとした。

木なのだ。この世にある植物に、本来名前などないのだ。

名前は、人間のいいように分類するためにつけられたに過ぎない。なにもかも。