曇りの夜は暖かい

兎にも角にも朝が来たら起きなければいけない。

古き良きもの、シルクスカーフ

春はなぜか頭にスカーフを巻きたくなる、のは私だけだろうか。頭に巻きたくなる、と言うと変なように聞こえるが、春のようにやわらかい色や素材を身につけたくなるのだ。

隣の隣のまたその隣の街で、リサイクルマルシェをするというので出かける準備をした。カチューシャのように頭に巻きつけたスカーフは、水彩画のように淡いイエローとブルーの花模様をしている。シルクでできているらしく、ふわふわとやわらかい。らしいというのは、母から貰ったものだからだ。母は何枚かシルクのスカーフを持っているが、私の中では母がスカーフを使っていた記憶はない。長年日の目を見ることのなかったそれは、少しだけ古めかしい匂いがした。

「カビの臭いではないから大丈夫よ。」

と半ば他人事のように言い、その中の1枚をもらったのだった。

 

リサイクルマルシェというのは、小さなお店が小さく開いているもので、アンティークの家電や古着、手芸の材料などが並べられていた。そこにあるすべての物に、小さな物語りが書かれた小さなメッセージカードが付けられていた。

「大中小3つあったものは、2つは人へ譲り1つだけ残りました。最後の1つはしまったままでしたが、大事に使ってくれる人がいるならと出品しました。カナダのアンティークショップで買いました。」

「夫のもので、ずっとクローゼットにしまっていましたが、着ているところを見たことがありません。良いものですので、しまっているよりは似合う方に着てもらえたらと思います。」

持ち主の手を離れた物たちは、どこか慎ましやかな雰囲気を纏っているのだった。

結局、一通り見たものの何も買わずにお店を後にした。

帰り際、窓ガラスに自分の頭のスカーフがちらりと映り、少しだけ気恥かしく感じた。差し込む光はやわらかく、頬に当たる風は冷たかった。