曇りの夜は暖かい

兎にも角にも朝が来たら起きなければいけない。

それはそうと、お元気ですか

「自分を護るための嘘なら時に付いてもいいのよ。」

例えば、本当は用事なんてなくても、そういうことにして帰っちゃうときがあってもいいんだからと。学生時代にそう教えてくれた先生が、精神安定剤を服用していたことを後に知った。それから、早期退職をしたという知らせを人づてに聞いた。

いつから薬を飲んでいたのだろう。あれは私にかけた言葉ではなく、自分自身に向けられた言葉だったのかもしれない。ストレスの発散方法はいくつも持っていたほうがいいとか、言うことが難しければ手紙で伝えてもいいとか、そういうことをよく言っていたような気がする。先生はなにかと戦っていたのだ。

 

3月から新しい職場で働くことにした。前の職場を辞めてから、もう8ヶ月も経っていた。もうと言ったが、その間に引っ越しと2回の入院治療をしたことを考えると、もっと時間は過ぎているようにも思えた。振り返ると私にとっては、激動の1年だったのかもしれない。

体調のことを考えて、週に4日だけ働くことにした。働く上で、持病のことを伝えるかどうかいつも迷う。しかし今回はきちんと働く前に病名を伝えた。案の定面接官は病名を知らなかったが、「子供がいるとか結婚しているとか関係なく時短勤務を取るというのが、うちの方針ですから。」

と面接で言われ、週に4日だけ働くことが許されたのだった。

それでも体力が唯一の不安材料で、試しに通勤経路を移動してみることにした。せっかく来たのだからと職場近くの珈琲屋に寄り、ちゃっかりモーニングまで食べた。

珈琲のことはあまり詳しく知らなかったが、今まで飲んだ中で1番相性の良い味だった。月曜の朝なのに、夕方のように薄暗くオレンジ色の光に包まれている店内で、シナモントーストと珈琲を口の中で混ぜ合わせながら食べた。店主が珈琲豆を直火で焙煎するために豆をかき混ぜる音が、心地よく耳に響いた。

40分くらいで席を立ち外へ出ると、カラスが道端のゴミ袋をあさっていた。カラスは一心不乱にくちばしで突くため、ゴミ袋の中身は車道の方まで散乱していた。ふと、カラスは脂を好んで食べるということを思い出す。エネルギーの高いものを食べるのは、より長く飛ぶためらしい。

もう十分に休んだ。次はできるだけ長く飛びたい、そう思った。