曇りの夜は暖かい

兎にも角にも朝が来たら起きなければいけない。

この暴力的な世界で。

ベーコンにじゅわじゅわと焼き目をつけ、にんじん、じゃがいもを加えてベーコンの油となじませる。お湯を加えてぶくぶくと沸騰させて柔らかくなったら味噌を入れてひと煮立ちさせる。香ばしい匂いで満たされた味噌汁を飲む。幸せなんてそれだけでいいんじゃないかと思う。

 

昨日、「この暴力的な世界で好きなものが一つでもあればいい」というような文字を本屋で見かけた。

「暴力的な世界」。「好きなもの」。

文字を頭に浮かべたとき、やはり想起されるのは前者の方で、「好きなもの」はぱっと出てこないのだった。一瞬の間を置いたあとに思い起こされたのは、ものではなく人で、あああの人はいま何をしているところなのだろうと思った。そして、私の知らないところでも笑って過ごしていてほしいと願った。

 

もしも今この瞬間に暴力的な世界にいたとしたら、そこから死にものぐるいでも逃げるしかないだろう。

この世界は一つにはならない。それは、ある種の救いでもあるのだから。