曇りの夜は暖かい

兎にも角にも朝が来たら起きなければいけない。

兄と石マカロン

今週のお題「手づくり」

 

いつからか作らなくなったのだが、毎年バレンタインデーの時期になると何かしらのスイーツを手作りしていた時期がある。ブラウニーにクッキー、生チョコにマフィン、手軽に作れるものは一通り作った。

それは誰かにあげるために作る時もあれば、単に作ってみたいから作る時もあった。いづれにせよ必ずそれはいくつか余るので、余ったものは家族に食べてもらっていた。他人に渡す前に家族の感想を聞くことで、それは他人に渡してもいいクオリティなのかをチェックしてもらうのだ。しかしある日を境に、私はその信憑性に疑いの目を向けざるを得ないのだった。

 

私が学生でまだ兄が実家にいた頃、今年は手の凝った物を作ろうとマカロンを作ったのだ。材料も分量もレシピ通り作ったはずが、オーブンで焼かれたそれはぎりぎり食べられるか食べられないかくらいに固かった。(私はぎりぎり食べられなかった。)

それはさすがに家族に食べてもらうまでもないので捨てようかと思っていた矢先、一応お皿に盛っていたそれを兄が食べたのだ。

自分が作ったものを人に食べてもらうのはいつでも緊張する。その上、明らかに失敗したと分かりきっているものを、誰かに食べてもらいたい人はいないだろう。正直、それは不味かった。自分で思っていることを改めて人に言われると、想像以上に傷つくこともある。どきどきしながらそれを手にした兄を私は遠目に見ていた。

「なにこれ、なんか美味しい。」

そう、兄は私に甘かった。特に手料理に関して。

それはマカロンを失敗したものだと伝えると、「クッキーみたいで結構美味しい。」

と言うのだった。

しかし兄はその時無理をしてそう言ったのか、本当にそう思ったのか、実際のところよく分からない。

その後も、私が明らかに失敗した料理に対して「こういうのはこのくらい焼けている方が好きなんだよな。」

と言ったり、

以前まで嫌いだと公言していた食材を「これは食べられる。」

と言ったりするのだった。

以降、私は私の中で、兄を審査員からそっと外した。