曇りの夜は暖かい

兎にも角にも朝が来たら起きなければいけない。

色褪せない花と壊れゆくもの

それは毛糸で規則的に編まれたように緻密で、神秘的な雰囲気を纏っていた。花屋で見かけ、妙に惹かれて思わず買ってしまったそれは、シルバーブルニアという花らしい。

それを買ったのは1ヶ月も前のことで、花瓶の水は既に干上がっていた。しかし変わったのはそれだけで、花は生けたときのまま形も色も何一つ変わっていないのだった。ずっとこのままなのだろうか。形あるものはいつか壊れるというけれど、形が崩れるのと色が褪せるのとでは、どちらが先なのだろう。

 

車の窓は雪が降ったせいで汚れていた。夕焼けがきれいな赤色であればあるほど、空気が汚れていると初めて教えてくれたのは誰だっただろうか。綺麗なものが綺麗だとは限らないのだとその時は単純にそう思った。

雪は、静けさを除いてはあまり好きではなかった。それに、昨年の冬から体は寒さに極端に弱くなった。夜にイルミネーションを見に行った次の日には40度を超える高熱を出し、数年ぶりに行ったスキーでは横を向けないほどの顎下腺炎になった。雪山を登るために買ったアイゼンは一度も使うことなくクローゼットに眠っている。白銀や純白と表されるそれが、インスタグラムにアップされているのを見る度に嫌気が差した。雪の日は、家の中でじっとしているのがいい。雪山は危険であるし、体を疲弊させるだけなのだからと何度も何度もそう思うのだが、未使用のままのアイゼンはそのままで、売ることも譲ることもできないのだった。クローゼットには中途半端が詰まっていて、過去は否応なしに迫ってくる。物がそこにある限り、いつかこの感情もきっと色褪せていく。